人件費

2025年6月の法改正により、カスタマーハラスメント(以下カスハラ)への対応が、企業の努力義務から実質的な義務へと大きく前進しました。

本コラムでは、

の3つのテーマに分けて解説します。

目次 [閉じる]

カスハラとは何か(定義)

法改正により、カスハラの定義が法令上明確化されました。

カスハラとクレームの違い

カスハラと顧客からの正当な要望(クレーム)の判別が難しい部分かと思いますが、カスハラとクレームの違いを考えるうえでは、次の3つの視点に着目することが重要です。

いずれか1つでも否定される場合で、就業環境が害されたときには、カスハラに該当します。

① 落ち度があるか

下記のように企業には何の落ち度もない場合、正当なクレームとは言えずカスハラに該当する可能性があります。

② バランスがとれているか

提供した商品・サービスに欠陥・過失があった場合でも「問題の大きさ」と「顧客の要求」のバランスがとれている必要があります。

商品が故障していたときに、その商品の価格と比較して…

③ 手段が相当なものか

企業側に落ち度があっても、手段が社会通念上相当でない場合カスハラに該当します。

企業として重要なのは、「どのような行為をカスハラと判断するのか」という自社基準の明確化です。

基準が曖昧なままでは、現場は対応に迷い、従業員の負担が増してしまいます。

厚生労働省よりカスハラとなる可能性のある行為例が公表されておりますので以下の図を参考にされてください。

(出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P9

労災認定との関係

2023年9月には精神疾患の労災認定基準が改正され、「業務による心理的負荷評価表」にカスハラの項目が追加されました。

カスハラ対応が難しい理由

従来のハラスメント(セクハラ・パワハラ・マタハラ等)は社内で起きるものであるのに対し、カスハラは社外の者から従業員が被害を受けるものになります。

従業員が加害者であれば指導や懲戒が可能ですが、顧客や取引先が相手の場合、企業が直接的な制裁を行うことは容易ではありません。

状況に応じては取引先や弁護士、警察など外部との連携が重要です。

取引先との間で発生した場合の対応

以下に、取引先と自社との関係で取引先が加害者になる場合と、自社従業員が加害者になる場合の対応のポイントをまとめております。

① 従業員が取引先から被害を受けた場合

  • ・事実関係の迅速な確認
  • ・記録の作成
  • ・取引先への事実確認依頼
  • ・必要に応じて契約上の対応検討

② 自社従業員が取引先へ行為をした場合

  • ・速やかな調査
  • ・就業規則に基づく適切な措置
  • ・取引先への誠実な説明と謝罪
  • ・再発防止策の実施

カスハラに対する企業の対応の必要性

カスハラに対して企業が適切な対応をとらなかった場合、安全配慮義務違反に問われる恐れがあり、被害を受けた従業員から損害賠償請求を求められることもあります。

実際に損害賠償請求が認められた裁判例もございます。

(出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P17

反対にカスハラ対策を十分に講じていたことで、安全配慮義務の責任を免除され、損害賠償請求が認められなかった裁判例もございます。

(出典)厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P17

企業が今すぐ取り組むべき5つの対策

1.基本方針の明確化

経営トップ自らが「カスハラを許さない」という姿勢を示すことが出発点です。
基本方針や姿勢を明確にし、安心して働ける環境づくりを行う。

2.対応マニュアルの整備

被害にあった際に迷わないための具体的手順を定めます。
カスハラ行為別の対応例を参考に社内用のマニュアル作成。

参考|厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P26~P28

3.相談体制の整備

安心して相談できる窓口の設置と周知。

4.教育・研修の実施

カスハラだけでなくクレームにも対応できるように、教育・研修の実施。
基礎知識や対応方法、記録方法、ロープレなどを盛り込み実践的な研修が効果的です。

5.被害従業員への配慮

現場からの速やかな隔離を行い医療機関受診の促しと心理的サポートが必要です。
安全確保とメンタルケアは最優先事項です。

2025年6月以降は「義務」

法改正後は、以下の措置を講じることが企業の義務となります。

おわりに

カスハラ対策は、単なるトラブル対応の仕組みづくりではありません。

「従業員の尊厳を守る」という企業の意思表示です。

また、従業員を守るだけでなく、企業そのものを守るリスクマネジメントです。

厚生労働省より企業用と従業員用のチェックシートが公開されておりますので、マニュアル作成時、従業員への周知の際にご活用下さい。

参考|厚生労働省『カスタマーハラスメント対策 企業マニュアル』P52~P54

本コラムが企業のカスハラ対策の一助になればと思います。

お読み頂き、ありがとうございました。

〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長

社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。

最近の講演内容
「社員の評価制度と賃金制度のあり方」 肥銀ビジネス教育株式会社主催
「欲しい人材を引き寄せる!求人募集と採用選考の見極め方セミナー」株式会社TKUヒューマン主催

給与計算業務や社会保険手続代行、労使間の法律問題、採用・組織づくりのご相談なら社会保険労務士法人プロセスコアへご相談ください!
社会保険労務士事務所への顧問契約を検討中の方はこちら
社会保険労務士法人プロセスコアの強み・主な提案内容を知りたい方はこちら

毎年のように引き上げられる最低賃金。

熊本でも2026年1月1日から新たな最低銀金、時給1,034円が適用されます。

人件費への影響だけでなく、正しい計算方法を理解していないことで知らぬ間に“最賃割れ”を起こしてしまうケースも少なくありません。

今回は最低賃金の基礎から、計算方法、適用基準、給与設計の見直し、そして最賃を下回った場合の罰則までを整理して解説します。

目次 [閉じる]

最低賃金とは?

最低賃金は、企業が労働者に支払わなければならない最低限の時給額を法律で定めたものです。

最低賃金は労働者全員に適用され、障害者雇用・パート・アルバイト・試用期間中の従業員も例外ではありません。

対象となる手当とは?

最低賃金に算入できるのは、労働の対価や業務遂行に対して支払われる手当です。
具体的には以下が含まれます。

対象とならない手当とは?

一方、以下のような手当は労働者の個人的事情や特定の労働対価ではないため、最賃の計算から除外されるものになります。

判断に迷う手当は?

これらの手当は支給基準にもよりますが、一般的には最低賃金の計算から除外されるため、給与体系を見直す際は、これらの手当を基本給やその他の手当に組み込むことを検討する必要があります。

最低賃金の計算方法

1.時間給制の場合

そのまま地域の最低賃金時間額と比較します。

2.日給制の場合

日給を、その日の所定労働時間数で割って時間額を算出します。

3.月給制の場合

月給から除外される賃金を除いた額を、月平均所定労働時間で割って時間額を算出します

  1. 【月平均所定労働時間の算出】
  2. 1.年間の所定労働日数を計算(例:365日 – 120日(休日) = 245日)
  3. 2.年間の所定労働時間数を計算(例:245日 × 8時間 = 1,960時間)
  4. 3.1ヶ月平均所定労働時間数を計算(例:1,960時間 ÷ 12ヶ月 ≒ 163.33時間)

特に月給者は時給換算を怠ると、気づかないうちに最賃割れしていることもあります。

自社の年間カレンダーに基づき、正確な月平均所定労働時間を算出しておきましょう。

事業所が他の県にもある場合は?

最低賃金は、労働者の「働いている事業場の所在地」の最低賃金が適用されます。

例)本社が東京、支店が熊本にあるにある場合
  熊本の支店で働く労働者は熊本の最低賃金が適用されます。

給与設計の見直し

前述の通り、最低賃金から除外される手当は多くあります。

  1. 【具体的な見直し策】
  2. 1.精皆勤手当の廃止または基本給への組み入れ: 皆勤を前提とせず、その分の原資を基本給に上乗せする
  3. 2.家族手当の職務手当化: 家族の有無によらず、職務や役割の難易度に応じて支給される手当として再定義し、基本給に近い性格を持たせる
  4. 3.通勤手当の実費精算化: 定額支給をやめ、完全に実費精算にする

※賃金体系の変更には、不利益変更とならないように細心の注意が必要です。

最賃を下回った場合の罰則

最低賃金は「強制法規」であり、違反すると厳しい対応が求められます。

1. 罰則

最低賃金法第40条:50万円以下の罰金

企業だけでなく、経営責任者や担当者が対象となる場合もあります。

2. 行政指導・是正

労働基準監督署からの是正勧告により、
過去に遡って不足分を支払う義務が発生します。

3. 付加金の可能性

悪質と判断されると、
未払い額と同額の「付加金」の支払いが命じられることもあります。

まとめ:毎年のチェックが企業を守る

最低賃金は毎年見直され、特に近年は大幅な上昇が続いています。

賃金体系が複雑な企業ほど、対象となる手当・対象外の手当の判断が難しく、意図せず法令違反になるリスクがあります。

2025年の最低賃金改正は、経営者にとって避けられないコスト増の波ですが、同時に、これまでの給与体系や雇用慣行を見直し、企業の付加価値を高める絶好のチャンスでもあります。

最低賃金の上昇を「単なるコスト」と捉えるのではなく、「優秀な人材を惹きつけ、定着させるための投資」と再定義し、同一労働同一賃金、職務給・役割給への移行、そしてパートタイマーのキャリアパス整備といった戦略的な人事施策を実行に移すことが、この新しい時代を勝ち抜く鍵となります。

人事労務担当者の方々は、最低賃金が適切に支払われるように対応すると同時に、未来志向の給与設計へと舵を切るきっかけにしていただけたらと思います。

〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長

社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。

最近の講演内容
「社員の評価制度と賃金制度のあり方」 肥銀ビジネス教育株式会社主催
「欲しい人材を引き寄せる!求人募集と採用選考の見極め方セミナー」株式会社TKUヒューマン主催

給与計算業務や社会保険手続代行、労使間の法律問題、採用・組織づくりのご相談なら社会保険労務士法人プロセスコアへご相談ください!
社会保険労務士事務所への顧問契約を検討中の方はこちら
社会保険労務士法人プロセスコアの強み・主な提案内容を知りたい方はこちら