2024.11.20
組織づくり

採用や定着に評価制度や報酬レンジを活かせていますか?

採用や定着に評価制度や報酬レンジを活かせていますか?

今回は、「評価制度」と「報酬レンジ※」とその説明の重要性について触れたいと思います。

というのも先日、お客様企業から、ある新人スタッフを採用した際のやりとりを伺って改めて大切なことだと考えさせられる機会があったからです。

※「報酬レンジ」とは一般的に、その職務に見合った給与の上限から下限の幅のこと

ここで言う職務とは、職務の遂行能力に応じたレベル(等級)やグレードと言い換えると馴染みやすいかもしれません。

例えば、1等級の給与レンジは月給18万円~24万円、2等級は24万円~28万円といった形で設定します。
ここでは月給で表現しましたが、年収を基準とする考え方もあります。
この「レンジ」は業界・職種・会社によってさまざまに設定されています。

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その新人スタッフは中途採用で、前職の退職理由を聞くと給与関係が原因だったそうです。

4年ほど在籍していたが毎年の昇給額が少なく、他の同期のメンバーより頑張って成果を出していても昇給額はほぼ一緒で、わずかな金額しか上がらず、長くその企業に勤め続けるイメージが持てなかったことが主な退職の理由でした。

そんな話を採用選考時に聞いていたので、当然採用する側としては、頑張ったらその分給与(年収)が上がっていく仕組みがある企業だとアピールをして安心材料を提供する必要があると思い、採用1日目のオリエンテーションで評価制度の説明を丁寧にされたそうです。

それが良い方向に効果が出たのか、その新人スタッフは採用選考のプロセスを経て応募したいという意向が固まり、入社してからも自分から積極的に仕事を覚えようとする姿勢を見ることができたというお話を聞くことができました。

オリエンテーションでどのように評価制度の説明をしたかというと、以下のようなことを伝えられたそうです。

「勤続年数に関わらず、1等級で求める、職務の遂行能力を身に着けることが出来たら2等級のレンジにジャンプアップするよ!」
「逆に勤続年数が長いからといって、いつまでも1等級で求める職務遂行能力を身に付けることが出来なかったら、ずっと1等級のレンジの上限で頭打ちになるよ!(昇給が止まることになるよ)」

上記のお話を聞いて改めて採用時に報酬レンジや評価制度の説明は重要だと感じました。

報酬レンジや評価基準の説明を採用選考時に設けている企業様では当たり前のことのように感じるかもしれませんが、制度が定まっていなかったり、採用選考時や採用して間もないタイミングで評価基準がどのように給与や年収に反映されるか伝えられていないところは意外に多いように思います。

上記のように制度として理由を示したうえで給与の改定を行わなければ、従業員の方々に(企業の業績に限らず)毎年一定額の昇給が行われるという認識を持たせてしまうことになります。

業績が堅調で、そのような認識を持たせても特に問題ないという企業様もいらっしゃるかもしれませんが、人口減少が続き、右肩上がりの経済成長が約束されない時代で、仕事の内容や責任が変わらなかったり、能力に成長が見られなくても(一人ひとりの生産性が上がらなくても)、単純に勤続年数が増えれば昇給できると従業員の方々に思わせることは、職場の緊張感が損なわれていき、成長意欲が高まらず、企業の成長を阻害する要因になり得ます。

報酬レンジは中長期的に組織全体をみても企業の成長を大きく左右するものといえます。

ではどのように設計していくのか?以下に手順とポイントをまとめてみました。

報酬レンジを作る手順とポイント

1.目的を明確にする

報酬レンジは、評価と処遇を密接に結びつけるものです。
設計に入る前に以下のような目的を考えましょう。

  • ・ 優秀な人材を他社に流出させない
  • ・ 公平性を担保し、社員のやる気を引き出す
  • ・ 採用時の交渉をスムーズにする

2.現状を把握する

まず、現状の給与を一覧化します。
社員の役職、経験、スキル、そして現在の給与や年収を整理しましょう。
また、採用市場での相場も確認します。

  • ポイント
  • ・ 同業他社の給与相場を調査する(求人サイトや業界レポートを活用)
  • ・ 自社の財務状況を考慮する

3.等級(グレード)を設定する

社員を役割やスキルレベルに応じて等級分けします。
例えば:

  • 等級1:初任者・ジュニアレベル
  • 等級2:中堅社員・スペシャリスト
  • 等級3:管理職
  • ポイント
  • ・ 等級ごとに求める、仕事の内容や責任、仕事の質、量、スピード、成果や役割の違いをできるだけ明確に反映する
  • ・ 社員が昇進・昇給する具体的な基準や道筋を示す

4.最低額と最高額を決める

等級ごとに支払う最低額と最高額を設定します。
この幅が「レンジ」となります。

  • ポイント
  • ・ 極端に広いレンジは避ける(公平性が損なわれる可能性がある)
  • ・ 業界の給与相場を参考に設定する(業界トップである必要はなく、腹八分・・・中間値と最高値の中間点以上のレベルでOK)

5.内部調整と社員への共有・運用

作成した報酬レンジを経営陣で確認し、最終調整を行います。
その後、社員に共有・運用します。

  • ポイント
  • ・ 説明の際は「公平性」を強調
  • ・ 「どのように評価されると昇給・昇格するか」を明確にする
     - 嫌われたくない、辞められたくないといった気持ちが出て、構築した制度を曲げた運用を行わない

社員にとって報酬レンジは「超えるべき壁」であり、「成長するための課題」になるものです。

不明瞭な基準や曖昧な運用は、長期的な視点で見ると社員の意欲を失わせ、成長スピードを停滞させることにつながります。

6.定期的に見直す

報酬レンジは一度作れば終わりではありません。
市場の変化や業績、社員の成長に応じて定期的に見直すことが必要です。

  • ポイント
  • ・ 年に一度、業界相場と比較する
  • ・ 組織の成長と整合性を保つ

7.まとめ

報酬レンジの作成は、企業の未来を形作る「設計図」といえます。

一見難しそうに思えるかもしれませんが、目的を明確にし、現状を把握し、適切な基準を設定することができます。

完璧なものができるまでは従業員になかなか共有できないと思われる方も多いですが、そういった場合は、4~5年かけて精度の高いものを作っていくので制度変更があり得ることを事前に周知して進めることをお勧めします。

制度を作り、従業員に伝えることで、言葉の表現や要件・基準が練られ、より良い制度になっていきます。
最初から完璧なものを求めず、運用しながら毎年少しずつ改良していくつもりで取り組むことが大切です。

雇用の流動化が進む今日、報酬レンジは人材の獲得・定着を考える上でもますます重要な制度です。

まだ制度がない企業様におかれましては、従業員個々人のやる気を高め、成長スピードを早める仕組みとして、ぜひ構築を進めて頂きたいと思います。

今回のコラムは以上です。

お読み頂き、ありがとうございました。

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〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長

社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。

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