2024.09.17
組織づくり

台風など天災時の従業員の出退勤と給与の取り扱いについて

台風など天災時の従業員の出退勤と給与の取り扱いについて

台風など天災時の従業員の出退勤と給与の取り扱いについて

台風や地震、豪雨などの天災が発生した際、企業は従業員の安全と事業の継続をどう両立させるかが重要な課題となります。

このコラムでは、地方の中小企業の経営者や人事担当者に向けて、天災時の従業員の出退勤や給与の取り扱いについての判断基準と対応策をご紹介します。

目次

  1. 1.休業か出勤か自宅待機にするかの判断基準
  2. 2.出勤扱いにした場合の従業員への配慮
  3. 3.給与の取り扱い
  4. 4.休業させる場合に休業手当の支払いが必要なケースとそうでないケース
  5. 5.まとめ

1. 休業か出勤か自宅待機にするかの判断基準

天災時に従業員を出勤(在宅勤務)させるべきか、休業させるべきか、または自宅待機とするかは、業務の内容と従業員の安全性のバランスを考慮しながら判断する必要があります。

例えば、医療や福祉、保育、食料品、農業等の1次産業、公共交通機関、行政機関など、社会生活を営む上で不可欠な事業においては、業務の継続が求められる場面も多いでしょう。

しかし、天災の影響が大きければ大きいほど、従業員を危険にさらすリスクが高まります。

例えば、台風の暴風雨や地震による交通障害などで従業員が安全に通勤できない場合は、無理に出勤を命じるのではなく、柔軟な対応が求められます。

最低限必要な人数に出勤を命じるなど、出勤の可否を慎重に判断し、安全を最優先にした対応を検討することも重要です。

2. 出勤扱いにした場合の従業員への配慮

天災時に出勤を命じられた従業員と、自宅待機や休業を命じられた従業員がいる場合、待遇の不平等が生じることがあります

出勤を命じられた従業員は、自身の安全を犠牲にして業務に当たっているため、その努力に報いる措置の検討も必要です。

具体的には、出勤した従業員には欠勤控除を行わず、特別手当や危険手当の支給を検討することで、不公平感を和らげることができます。

また、自宅待機となった従業員にも同様に欠勤控除を行わず、事態の収束を待つことができるような配慮を示す方法もあるでしょう。

天災時には、企業全体で一丸となって協力する姿勢を示すことが、従業員のモチベーション維持につながります。(例外として、小学校等へ通学する子どもを持つ従業員がいて学級閉鎖が行われるような場合は、無給休暇取得(本人が希望した場合は有給休暇取得)を認めるといった、従業員の家族構成に応じた柔軟な配慮も必要です。)

3. 給与の取り扱い

天災時の給与の取り扱いについては、出勤や自宅待機、休業の各ケースに応じた適切な対応が求められます。

出勤に限らず、自宅待機とした従業員も欠勤控除を行わず、通常の給与を支払うことで、経済的な不安を軽減させることも可能です。

また、休業を命じた場合には、平均賃金の60%以上の休業手当を支給することが法律で定められています。これにより、従業員は収入の大幅な減少を防ぐことができ、企業に対する信頼感も維持されます。

4. 休業させる場合に休業手当の支払いが必要なケースとそうでないケース

休業させた場合に、休業手当の支給が必要となるかどうかは、労働基準法26条に係る行政解釈基準によると「事業主の責めに帰すべき事由による休業であるかどうか」が判断基準となります

ただし、「不可抗力」にあたる休業の場合は、使用者に休業手当の支払義務はありません

不可抗力による休業と認められるためには、

①その原因が事業の外部より発生した事故であること
②事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができないケースであること

の2つの要件を満たす必要があります。

例えば、突然の大規模な自然災害によって工場が被災し、復旧に時間がかかる場合や、交通網が完全に遮断されて従業員が出勤できない状況がそれに該当します。

このような場合、休業手当の支給は不要となりますが、事前に従業員に説明を行い、理解を得ることが重要です。

また、休業手当支払の必要の可否は、休業を決定した時期にかかわらず、あくまでその日が天災事変によって休業が不可抗力であったかどうかで問われることになります。

不可抗力にあたるケースはかなり大きな災害の影響が出ているケースであることが想定されますので、事業主の判断で休業を決定した場合、休業手当の支給が必要となるケースが多いかと思います。

解釈が分かれやすい部分でもあると思いますので、従業員との信頼関係を損なわないためにも、休業手当を支払うケースはどのような場合か事前に明確にしておくと良いでしょう。

5. まとめ

天災時の対応については、企業の業務の必要性と天災の規模、そして何より従業員(人命)の安全性を第一に考えることが求められます。

台風や地震、積雪など、様々な天災の予報が発表された際には、対策検討の時期を定めるなど迅速かつ的確な判断を行うための対応マニュアルを整備しておくことが有効です。

また、出勤を命じた場合の配慮や、休業手当の支払いについても、従業員の視点に立った対応が重要です。

天災はいつ起こるかわかりませんが、日頃からの備えと、従業員への配慮が、企業の信頼性を高める大きな要素となります。

企業としての対応を一貫させることで、従業員へ安心感を与え、天災時の非常事態を協力して乗り越える基盤を築いていきましょう。

〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長

社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。

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