【特集】2025年6月成立「年金制度改正法」の概要と実務ポイント

今回は、2025年6月に成立した「年金制度改正法」について、企業実務に関係する主要ポイントをわかりやすくご案内いたします。
この改正は、少子高齢化・働き方の多様化が進む中、年金制度の機能を強化し、すべての人にとって持続可能で公平な年金制度を目指すものです。
企業にとっては、労務管理や人件費設計の見直しが必要になるケースもあるため、改正内容を早めに把握し、準備を進めることが重要です。
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年金制度改正の主な目的
今回の年金制度改正の目的は、大きく以下の4点に集約されます。
- 働き方や性別に中立的な制度設計の実現
- 社会保険の加入機会の拡大による格差の是正
- 高齢者の就業継続支援と所得保障の両立
- 私的年金制度の活用促進と自助努力の後押し
これにより、企業の規模や個人の働き方にかかわらず、年金制度への公平な参加と、高齢期の安定的な生活設計が可能となる制度への転換が進められます。
改正内容の主なポイント
改正の中でも、企業に直接影響がある以下の5点を中心にご説明します。
① 社会保険の加入対象拡大
◆ 賃金要件の撤廃(いわゆる「106万円の壁」解消)
現在、週20時間以上勤務していても、年収が106万円未満の場合、社会保険に加入できないケースがありました。今回の改正により、賃金要件は全国一律に撤廃され、労働時間などの条件を満たせば年収に関係なく社会保険に加入できるようになります。
◆ 企業規模要件の撤廃
これまで「従業員51人以上」の企業に限定されていた社会保険の適用も、2027年10月以降段階的に撤廃され、最終的にはすべての企業で対象者が適用となります。
スケジュール:2027年~2035年10月にかけて段階的拡大

◆ 実務への影響
- 対象者の把握と加入手続きの準備
- 社会保険料負担の増加を見据えた人件費設計の見直し
- 社員への説明体制の整備(特にパート・アルバイト)
② 在職老齢年金制度の見直し
60歳以降も働きながら年金を受給している人は、「賃金+年金」が一定額を超えると、老齢厚生年金の一部が支給停止されます。
この「支給停止基準額」が、2026年4月から 月51万円 → 月62万円 に引き上げられます。
◆ 実務への影響
- 高齢社員への賃上げ・賞与支給が柔軟に「働くと年金が減る」調整行動の緩和
- 年金・給与の関係についての社内説明の整備
企業にとっては高齢者雇用を推進しやすくなる改正であり、特に60代後半の戦力化を図りたい企業にとっては追い風となるでしょう。
③ 標準報酬月額の段階的引上げ
厚生年金の保険料および年金額の基準となる「標準報酬月額」の上限が、以下のスケジュールで段階的に引き上げられます。
- 2027年9月:68万円
- 2028年9月:71万円
- 2029年9月:75万円
現在の上限は65万円ですので、高所得者にとっては保険料負担が増える一方、将来の年金給付も増加する仕組みです。
◆ 実務への影響
- 高所得層への説明と対応(特に役員クラスや専門職)
- 給与体系の見直し、社会保険料のコスト管理強化
④ 遺族年金の男女差解消
◆ 遺族厚生年金の見直し
現在、子のいない配偶者に対する遺族厚生年金の支給要件は男女で異なっており、特に男性には不利な取り扱いがありました。
2028年4月以降、子のいない配偶者に対する支給は「男女共通で原則5年間の有期給付」に統一されます(低所得者には延長可能な経過措置あり)。
◆ 実務への影響
- 共働き世帯での死亡保障設計の見直し
- 福利厚生・団体保険制度の再検討
- 従業員への制度説明の準備
- 企業における退職金制度や死亡退職金の見直しも、今後の議論となる可能性があります。
⑤ 私的年金制度の見直し(iDeCo・企業型DC)
老後資産形成を支援する私的年金制度にも、いくつかの重要な改正が行われます。
◆ iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入年齢引上げ
- 現在:65歳未満
- 改正後:70歳未満(施行時期:公布から3年以内)
これにより、高齢期まで長く積立を続けられるようになります。
◆ 企業型DCのマッチング拠出の柔軟化
- 従来:従業員の掛金は企業掛金を超えてはならない
- 改正後:この制限を撤廃し、拠出限度額内で自由に積立可能に
◆ 企業年金の「見える化」
企業年金の運用状況が厚労省によって公表されることで、制度の透明性が高まり、従業員の納得感や信頼性向上につながります。
◆ 実務への影響
- iDeCo・企業型DC併用者への制度説明と管理
- 制度活用方法の社内研修やライフプラン相談の提供
- 年金制度と退職金制度の連携見直し
今後のスケジュール(抜粋)

改正事項について解説した補足資料(詳細版)法律説明資料(詳細版)
| 年度 | 主な改正内容 | 実務対応の例 |
| 2026年4月 | 在職老齢年金の基準額引上げ | 高齢社員の賃金設計見直し |
| 2027年10月 | 社会保険の企業規模要件段階的撤廃開始 | パート勤務実態の整理 |
| 2027年9月 ~2029年9月 | 標準報酬月額上限を段階引上げ | 給与と保険料負担の調整 |
| 2028年4月~ | 遺族年金の男女差見直し | 福利厚生・保障制度の再設計 |
| 公布から3年以内 | iDeCo加入年齢・賃金要件撤廃など | 私的年金制度の社内整備 |
おわりに:制度改正は「人材戦略」と連動させて活かす
今回の改正は、「制度対応」だけでなく、働く人のライフプラン支援や人材戦略と深く結びつくテーマです。特に中小企業においては、限られたリソースの中で、いかに社員に寄り添いながら対応していくかが、採用力や定着率向上にもつながるカギとなります。
弊所では、制度改正に伴う具体的な対応支援(対象者リストアップ、説明資料作成、制度研修の実施など)も承っております。お気軽にご相談ください。
以上、2025年年金制度改正の解説となります。貴社の今後の対応に、少しでもお役立ていただければ幸いです。
〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長
社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。
最近の講演内容
「社員の評価制度と賃金制度のあり方」 肥銀ビジネス教育株式会社主催
「欲しい人材を引き寄せる!求人募集と採用選考の見極め方セミナー」株式会社TKUヒューマン主催

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