マーケティング思考を取り入れた人材採用活動のススメ

マーケティング思考を取り入れた人材採用活動のススメ

中小企業の経営者や人事担当者の方にとって、採用は事業活動において大きな課題のひとつではないでしょうか。

人口減少による働き手不足で、求人広告を出しても反応が薄い、応募が来ても採用に至らない、良い人材が長続きしないなど、事業活動をするうえで採用活動が最重要課題になっている企業も少なくないと考えます。

しかし、これらの課題は視点を少し変えるだけで、解決の糸口が掴める可能性があります。

そのヒントが採用に「マーケティング」という考え方を取り入れることです。

今回のコラムは、中小企業でも実践できる採用マーケティングの基本的な手法を解説します。

採用マーケティングとは何か?

一般的に、マーケティングとは「顧客の欲求を満たすために企業が行うあらゆる活動の総称」と言われています。
具体的には、「顧客のニーズを探るための市場調査・分析、それらにもとづく商品企画・開発、開発した商品を知ってもらうための広告宣伝活動・プロモーション等」がそれにあたります。

採用マーケティングとは、マーケティングの考え方や手法を採用活動に応用するものです。

単に求人情報を発信するだけではなく、ターゲットとなる求職者を「顧客」と捉え、自社が提供できる価値をしっかりと伝えることを目的としています。

「自分たちは認知度が低い中小企業だから、人気のない業態だから」と諦めてはいけません。

実際に、医療クリニックがこの手法を取り入れて、成果を上げた事例をご紹介します。

医療クリニックの事例

ある医療クリニックが受付スタッフを募集していました。しかし、半年間求人を出し続けても応募がなく、院長は困り果てていました。そこで採用マーケティングの視点を取り入れることにしました。

求人情報を見直し、ホームページに、院長のインタビュー動画を掲載しました。

動画の内容は、「医師になることを志した理由や仕事していて感じるやりがい、仕事内容、どのような医療サービスや職場作りを目指しているか」を掲載しました。

それからまったく反応がなかったのが、問い合わせが入るようになり、動画掲載から2ヶ月後には新しいスタッフを採用することができました。

採用した求職者に、採用選考時になぜ他のクリニックの求人もある中で当クリニックに応募頂けたのか?という質問をしたら、動画をみて先生の親しみやすい人柄や仕事を楽しんで取り組まれている雰囲気や仕事内容を丁寧に説明されていることが、他のクリニックの求人と大きく違い、好印象を持って応募を決めたという回答だったそうです。

この事例から学べるのは、採用活動においても「ターゲットを理解し、魅力を伝える」ことの重要性です。

採用マーケティングの3つのステップ

採用マーケティングを成功させるには、次の3つのステップを踏むことが重要です。

1.分析:求職者を深く理解する

まず、ターゲットとなる求職者がどのような人たちなのかを徹底的に分析します。この段階では、求職者の年齢や性別、職業だけでなく、彼らの価値観や目指す未来、抱える悩み、不安などを具体的に掘り下げていきます。

この分析に役立つのが「ペルソナ分析」です。ペルソナとは、ターゲットとなる求職者をイメージした架空の人物像のことです。例えば、以下のような情報をもとにペルソナを作成します。

  • 年齢、性別、職業、家庭環境
  • 趣味や関心事、普段の生活スタイル
  • 仕事に求めるものや不安に感じていること

ペルソナを作ることで、求人情報に反映すべき要素が見えてきます。

具体的なイメージがわかない場合は、企業内で活躍してくれているスタッフに就職前の状況や応募にあたって何が決め手になったのかなどヒアリングを行うことが有効です。

2.戦略:自社の魅力を整理する

分析の結果に基づいて、求職者に伝えるべき自社の強みを整理します。この段階では、自社の魅力を単に羅列するのではなく、求職者にとっての「得られる変化」を意識することが大切です。

例えば、「若いスタッフが多く明るい雰囲気の職場」や「入社後の研修制度が充実しており、半年で業務に必要なスキルを習得できる」など、求職者が入社後にどのような成長や安心感を得られるかを具体的に伝えるようにしましょう。

3.施策:適切な方法で発信する

最後に、分析と戦略を踏まえた上で、適切なメディアや手法を選んで情報を発信します。

「とりあえず有名な求人サイトに掲載する」というアプローチではなく、ターゲットに最も効果的にリーチできる媒体を選びましょう。

例えば、SNSを活用する場合には、20代前半から30代前半の年代層がターゲットならInstagram、30代後半以降ならFacebookといったようにターゲットに絞って掲載する媒体を選定しましょう。

また、写真や動画を効果的に使うことで自社の雰囲気を伝えることができます。採用ページの訪問者数や滞在時間、応募数などのデータを活用して、施策の効果を分析し、改善を繰り返すことも重要です。

採用マーケティングを成功に導くポイント

求職者の目線で考える

採用活動では、つい「企業が伝えたいこと」を重視しがちです。

しかし、求職者が本当に知りたいのは、「この会社に入ったら自分にどんなメリットがあるのか」です。

例えば、「最先端の設備があります」と伝えるだけではなく、「この設備を使うことでスキルを磨き、キャリアアップができる」といった具体的な変化を示すと、求職者にとって魅力的に映ります。

成果を数値で把握する

マーケティングの世界と同じく、採用でも数値による分析が成功の鍵を握ります。

例えば、求人ページの閲覧数、求人媒体ごとの応募数、面接の通過率など、採用プロセスを細分化してデータを収集し、ボトルネックを特定しましょう。
改善ポイントが明確になれば、限られたリソースを効率的に活用できます。

現実的な事例を活用する

商品・サービスを実際に利用した「お客様の声」が訴求力が高いように、「先輩社員のインタビュー」を求人ページに掲載することも有効です。

例えば、「入社1年目で企画のリーダーを任されるようになった」や「家庭と仕事を両立しながらキャリアを築いている」などの事例を共有すると、求職者はその会社での未来をイメージしやすくなります。

小さな工夫で大きな成果を

採用活動は企業の未来を左右する重要な取り組みです。大企業のような認知度やブランド力はなくとも、知恵を絞り、採用マーケティングの視点を取り入れるだけで、成果に繋げることができます。

まずは、小さな改善から始めてみてはいかがでしょうか。

たとえば、求人情報の写真やメッセージを見直すだけでも、求職者に与える印象は大きく変わります。

また、SNSや採用ページのデータを活用し、効果を分析しながら少しずつ施策を改善していくことで、確実に採用活動の質が向上します。

まとめ

採用マーケティングは、「ターゲットの理解」、「自社の魅力の整理」、そして「効果的な情報発信」という3つのステップで構成されています。

この手法を取り入れることで、中小企業でも他企業に負けない採用力を身につけることができます。すぐに結果に繋がらなくても諦めず、試行錯誤を繰り返し、成果に結びつけていきましょう。

今回のコラムが少しでも経営者や人事担当者の皆さまが抱える採用の悩みの解消に少しでもつながることを願っています。

お読み頂き、ありがとうございました。

〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長

社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。

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