2020.10.21
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「同一労働同一賃金の最高裁判決」について

「同一労働同一賃金の最高裁判決」について

おはようございます。
プロセスコアの木下です。

 すっかり秋らしい季節になりましたね。
今年一月に配信しましたメールマガジンにて、熊本県出身力士正代関の優勝に一歩及ばず・・・といった記事を書かせて頂きましたが、ついに先月の9月場所において優勝、そして大関昇進を果たしました!

 今年は九州豪雨災害もあり、そして新型コロナ感染症と大変な年となりましたが、正代関が故郷熊本に元気を、との思いも叶い、嬉しい嬉しい優勝となりました。
これからも、ケガなどせず、多くの方に愛される大関として頑張って欲しいと思います。

○●○━━今回の配信内容━━━━━━━━━━━○●○
    同一労働同一賃金の最高裁判決について
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今月は、経営者の皆様にとって大変重要な、同一労働同一賃金の最高裁判決がありました。

 今回のメールマガジンは、
この最高裁判決で、企業の人事制度や給与体系においてどのような影響があるのかを解説したいと思います。

<10月13日>
・大阪医科薬科大学事件
 元アルバイト職員が賞与などの支払いを求めた訴訟
 →「不合理な待遇格差」には当たらないとして棄却

・メトロコマース事件
 東京メトロの契約社員が、正社員と契約社員の賃金格差がありすぎるとして、正社員の25%の退職金相当額支払を求めた訴訟
 → 退職金がないことは不合理ではないと棄却

<10月15日>
日本郵便事件(東京・大阪・福岡(佐賀))
 各地の郵便局で配達や集荷を行う契約社員らが、正社員と同じ業務をしているのに手当や休暇の待遇に格差があるのは不当だと日本郵便を訴えた裁判
 → 日本郵便の手当や休暇のうち、
 ・扶養手当 ・病気休暇(有給)
 ・年末年始勤務手当 ・年始祝日給
 ・お盆と年末年始の休暇
 について不合理な格差と認めました。

 以上の通り、
賞与と退職金の格差  →不合理ではない
手当や短期の休暇の格差→不合理を認める
と判断が分かれました。

 この判決により、「非正規労働者に賞与や退職金は払わなくてよい」ということではなく、最高裁は、あくまで個別のケースごとに詳細に検討すべきだとの考えを示しています。
ですから賞与や退職金であっても、制度設計や運用の実態次第で、裁判所の判断が変わる可能性は十分にあります。

この同一労働同一賃金は、「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」の客観的・具体的な実態に照らして不合理なものであってはならない、という少々複雑な制度になっています。(パート・有期法8条)

 つまり、正社員と、非正規労働者とで、職務内容や責任度合いの違い、配置転換の有無、職務の難易度等の違い、その違いに応じて給与や待遇の差を設けることは可能です。

 ただ、その違いに応じた差に不合理がないか、というところが大変重要となります。

 政府は「同一労働同一賃金ガイドライン」で、正社員と非正規労働者の待遇に差がある場合、何が不合理に当たるのか、原則となる考え方や具体例を示しています。
(具体例)
・時間外や深夜・休日労働は同じ割増率での支給する
・通勤手当や精皆勤手当などについては格差を認めない
・勤務の途中に食事の為の休憩時間の差がある際の食事手当は同一に支給する
など

 しかしながら、賞与や退職金の扱いについては具体的な明示はされていません。
例えば、賞与については、「会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない。」と曖昧な内容で、どの程度なら違法でないかはっきり示されていません。

今回の判決で賞与については、
・職務内容の違い
・配置転換の可能性の有無
・登用制度の存在
・賞与の支給目的を
「正職員として職務を遂行できる人材を確保し、定着を図る目的で支給している」とし、アルバイトは業務が相当簡便で配置転換もなく、賞与の不支給は不合理な格差に当たらないとしました。

退職金についても、職務内容は「おおむね共通する」としつつも、
・正社員は複数店舗を統括するエリアマネジャー業務への従事
・配置転換を命じられる可能性がある
など「一定の相違があったことが否定できない」とし、

また、退職金の支給目的が、
「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図る」
ことにあるとして、
「不合理とまでは判断できない」と結論付けました。

中小企業においては、来年令和3年4月1日より同一労働同一賃が適用されます。

 今回の判決を踏まえ、企業様での取り組みとしては、正社員、有期契約社員、パートタイマー等の雇用区分に応じ、職務内容、配置転換の有無、責任度合い、職務の難易度等の違いについて、「職務分担表」「等級基準表」等を作成し
明確にしておくことが必要です。

 この雇用区分に応じた職務内容等の違いが明確でないと、実質的に正社員と同じではないか、と言われる可能性があります。

 また、今回の法改正により、従業員から待遇の差について説明を求められたら企業は説明をする義務がありますので、説明ができるだけの整備が必要です。

 今後、同一労働同一賃金の取り組みについて、取り組み手順や不明な点については、弊所または担当スタッフまでご相談下さい。

「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要については、以下よりダウンロード頂けます。
https://drive.google.com/file/d/16eOfb5Me4RTAaj878WtVmXlGcS7fuyaB/view?usp=sharing

○●○最近の動き(Topics)━━●○●
直近1ヶ月から2ヶ月の労働行政の動きや新聞記事を纏めたものです。
今後の人事・労務関連の次の一手を打つための情報として、是非ご一読下さい。

1. 企業倒産件数が過去30年で最少(10月9日)
2. 介護保険料の滞納で、差し押さえ処分を受けた高齢者が最多に(10月5日)
3. 8月の求人倍率低下、失業率も悪化(10月3日)
4. 民間給与、中小企業で減少(10月1日)
5. 菅首相が5年で行政デジタル化を指示(9月28日)
6. テレワークで地方移住、最大100万円補助 政府21年度から(9月25日)
7. 外国人の就労情報を雇用先ごとに集約 在留管理庁が不正監視強化(9月24日)
8. マイナンバーと預貯金口座をひもづけ デジタル化推進で政府が方針(9月23日)
9. パートの賃上げ率 7年連続で最高(9月15日)
10.労基署立入り調査 半数が違法残業(9月9日)
11.新型コロナ 解雇・雇止め5万人(9月1日)
12.有期契約労働者 2カ月超見込みなら当初から社会保険加入(8月31日)
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1. 企業倒産件数が過去30年で最少(10月9日)
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東京商工リサーチの発表で、2020年4月~9月までの企業倒産件数は3,858件(前年同月比9%減)と過去30年で最も少ないことがわかった。新型コロナウイルスの感染拡大の影響により破産手続き業務を行う裁判所の業務が一時止まったことや、政府や金融機関の資金繰り支援が一定の効果があったことが要因と考えられる。負債総額については、5,991億1,900円と3年ぶりに増加し、負債総額10億円以上の大型案件は105件に上っている。

2. 介護保険料の滞納で、差し押さえ処分を受けた高齢者が最多に(10月5日)
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介護保険料を滞納し、市区町村から資産の差し押さえ処分を受けた65歳以上の高齢者が1万9,221人(2018年度)に上り、調査開始の2012年度以降最多となったことが厚生労働省の調査でわかった。65歳以上が支払う介護保険料の全国平均は月額5,869円(2018~2020年度。制度開始の2000年度は月額2,911円)。高齢者の多くは年金から保険料が天引きされるが、年額18万円未満の人は、金融機関などで自ら納める必要がある。

3. 8月の求人倍率低下、失業率も悪化(10月3日)
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厚生労働省の発表で、8月の求人倍率は1.04倍(前月比0.04ポイント低下)、完全失業率は3.0%(前月比0.1ポイント上昇)となったことがわかった。有効求人倍率は8カ月連続の低下、失業率は2カ月連続の悪化となった。完全失業者数は206万人(前年同月比49万人増)で、7カ月連続で増加した。

4. 民間給与、中小企業で減少(10月1日)
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国税庁の調査で、民間企業の会社員やパート従業員らの昨年1年間の給与が平均436万4,000円で、前年を1%(4万3,000円)下回り、2012年以来7年ぶりに減少となったことがわかった。大企業は増加したが、全体の4割を占める100人未満の中小企業で減少となった。また、正規社員の平均給与は前年と同じ503万円、非正規社員は175万円(前年比2.5%減)で、格差は7年連続で広がった。

5. 菅首相が5年で行政デジタル化を指示(9月28日)
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菅首相は25日、首相官邸で開いた会議で、行政のデジタル化を今後5年で達成するよう各府省に指示した。自治体間のシステム統一やマイナンバー制度の改革が柱となる工程表を年内につくる。政府は行政のデジタル化へ33項目の政策目標を掲げていて、マイナンバーカード情報をスマートフォンに搭載する仕組みも検討する。

6. テレワークで地方移住、最大100万円補助 政府21年度から(9月25日)
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政府は2021年度から、テレワークで地方に移住して東京の仕事を続ける人に最大100万円を交付する。地方でIT関連の事業を立ち上げた場合には最大300万円を支給する。21年度予算の概算要求に地方創生推進交付金として1,000億円を計上する。首都圏から移住して地方で起業する場合の支援制度はこれまでにもあったが、新たに東京の仕事を地方で続ける人も対象に加える。

7. 外国人の就労情報を雇用先ごとに集約 在留管理庁が不正監視強化(9月24日)
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企業などに外国人労働者の適正な受入れを促すため、出入国在留管理庁が、受入れ先ごとに外国人の就労情報を管理する取組みを始めることがわかった。受入れ先ごとの状況を把握し、不正な働かせ方をしていないか監視を強める。一方で、クリーンと判断できる受入れ先からの在留申請の審査は簡素化する方針。

8. マイナンバーと預貯金口座をひもづけ デジタル化推進で政府が方針(9月23日)
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政府は、デジタル改革関係閣僚会議の初会合を開催し、行政サービスのデジタル化を一元的に担う「デジタル庁」の検討を本格化させた。来年の通常国会での法整備を目指す。デジタル改革では特にマイナンバーの活用が優先課題とされており、今後、各種免許・国家資格との一体化、迅速な給付金の実現のための預貯金口座とのひもづけについて検討が行われる。

9. パートの賃上げ率 7年連続で最高(9月15日)
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小売企業や外食企業などの労働組合でつくるUAゼンセンの集計で、今年の春季労使交渉においてパート1人あたりの平均賃上げ率が2.64%(前年同期比0.09ポイント増、時給26.1円相当)と7年連続で過去最高を更新したことが明らかになった。また、5年連続でパートの賃上げ率が正社員の賃上げ率を上回った。

10.労基署立入り調査 半数が違法残業(9月9日)
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厚生労働省の発表によれば、全国の労働基準監督署が2019年度に立入り調査した3万2,981事業所のうち、47.3%(1万5,593事業所)で違法残業が確認された。「過労死ライン」とされる月80時間を超える残業を行っていたのは5,785事業所で37.1%に当たる(前年度比29.7ポイント減)。

11.新型コロナ 解雇・雇止め5万人(9月1日)
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新型コロナウイルスの影響で解雇や雇止めになった労働者が、8月末時点で5万326人(見込み含む)となったことがわかった。雇用形態別(5月25日~8月21日)では、非正規雇用労働者が2万625人に上る。業種別(8月21日)では、製造業が最も多い7,575人。都道府県別(同)では東京都が1万1,200人と最多。

12.有期契約労働者 2カ月超見込みなら当初から社会保険加入(8月31日)
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厚生労働省は有期契約の労働者が社会保険に入れるよう制度を見直す。現状は、雇用期間が2カ月以内の場合、契約期間後も継続雇用されなければ厚生年金に加入できない。これを、2カ月を超えて雇用される見込みがある場合、当初から厚生年金に加入するよう見直す。雇用契約書に「契約が更新される」「更新される場合がある」などと明示されている場合が対象。2022年10月から実施する。

最後までお読み頂き、ありがとうございました。