問題社員を解雇する前に企業の人事担当者に考えて頂きたいこと

「社員の解雇」は、経営者や人事担当者にとって非常に重たい決断ですよね。
就業規則に解雇の条文が記載されているから解雇が行えるといった単純な問題ではなく、企業にとって大きなリスクを負う可能性もあります。
今回のコラムでは、解雇にはどのようなリスクや負担が伴うのか?
そのリスクを回避するために企業側はどのような対策が必要かをまとめました。
是非ご一読ください。
目次 [閉じる]
1.解雇をするとどんな負担・影響が企業に生じるのか?
金銭・時間的損失
まず、金銭的負担です。
即時解雇をする場合には、労働基準法で定められた「解雇予告手当」(30日分以上の平均賃金)を支払う必要があります。
規律違反による懲戒解雇であろうが、能力・適正不足による普通解雇であろうが、解雇予告手当の支払いが必要です。
しかも解雇の効力発生には、即時解雇の場合は、解雇を言い渡した日、もしくは解雇予告※をする場合は解雇日までに解雇予告手当の支払いをすることも必要です。
支払うためには事前に解雇予告手当の計算や支払いの準備(受領書もしくは振込手続き)も必要となります。
※解雇予告・・・企業側が労働者に30日以上前(もしくは解雇予告期間を短縮した場合は、残日数分の平均賃金の支払いが必要(例・・・解雇日の20日前予告+残り10日分の平均賃金相当額の解雇予告手当の支払いが必要))に予告通知することが労働基準法で定められており、その期間中の賃金支払義務が企業側には発生します。
訴訟リスク
次に、訴訟リスクです。
労働契約法第16条は「解雇権濫用法理(かいこけんらんようほうり)」を定めており、合理的理由や社会的相当性を欠く解雇は無効とされます。
もし不当解雇と訴えられれば、裁判や労働審判に発展し、企業は多大な時間と費用を奪われます。
弁護士の方に代理人を依頼したとしても、打ち合わせ、資料整理や提供の時間、弁護士への委託報酬は発生します。
解雇の正当性を十分に証明できるだけの証拠書類がない場合や準備不足のまま訴訟に臨むことになると結果的に、解雇無効が認められ、解雇から判決確定までの賃金支払いを命じられるケースも珍しくありません。
助成金への影響
さらに、助成金への影響も考えられます。
厚生労働省管轄の助成金は「一定期間、解雇など事業主都合による離職を行っていない企業」が受給条件になっているものが多く、安易に解雇すると一定期間、受給資格を失う可能性があります。
2.解雇は最終手段
このように、解雇は企業にとって大きな損失をもたらすため、「最後の手段」と捉えるべきだと考えています。
解雇に至る前に、まずは以下のステップを踏むことが重要です。
【改善命令と猶予期間の付与】
問題行動が見られた場合、いきなり解雇に動くのではなく、改善命令を文書で出し、一定の猶予期間を設けるべきです。
「◯月までに業務態度を改善すること」
「再発した場合には処分の対象となっても異議申し立てをしない」
といった具体的な指示と改善について取り組むことについての約束を書面で取り付け、その記録を残すことが将来の証拠にもなり得ます。
【退職勧奨の実施】
上記の改善命令の文書にサインを拒んだり、猶予期間を与えても改善の余地が乏しいと判断した場合には、まず退職勧奨を行います。
退職勧奨は「あなたのためにも円満に退職した方がよいのではないか?」、規律違反や方針に従わない社員に対してするものであれば「弊社のルールや方針に従えないなら他の職場をあたったほうが良いのではないか?」と提案するもので、あくまで本人の自由意思に委ねる形です。
【上手な伝え方】
退職勧奨の場では、感情的な言葉は避け、事実に基づいた説明を行うことが肝要です。
「このまま在籍しても成長が見込めない」
「今の職場環境が合っていないだけ、お互い不幸だし、あなたにはもっと合った職場があるのではないかと思う」
といった社内の影響だけでなく、相手のキャリアや成長を考慮したうえでの判断であることを明確に伝えることも大切です。
退職勧奨に応じなければ、解雇通知も考えているが、解雇はあなたの経歴にも傷をつけるし、これまでの職場の同僚や内外関係者の方にも解雇での離職といったことを伝えることはできるだけ避けたい、また、必要に応じて雇用保険(失業保険)を受給するための離職票の速やかな発行や退職慰労金の支払いを行うことで、就職先が見つかるまでの経済的補填も企業が考えているということを伝えると、本人の不安も軽減し、退職勧奨に応じやすくなるケースあります。
事前に、伝えるべき内容をメモや文書で整理しておくと良いでしょう。
【伝える内容の整理】
- ・問題行動の具体例
- ・改善命令を行った経緯
- ・退職勧奨の理由
- ・今後のサポート内容
これらを明確にしておくことで、交渉の場がスムーズになり、トラブルを防ぐことにつながります。
3.退職勧奨に応じないときは、最終手段の解雇
退職勧奨に応じない場合、やむを得ず解雇を選択する場面もあります。
その際に人事担当者が押さえておくべき実務的ポイントを整理します。
【解雇予告または解雇予告手当】
労働基準法では30日以上前に解雇予告を行うか、または30日分以上の平均賃金を支払うことが定められています。即時解雇を行う場合は必ず解雇予告手当を支払いましょう。
【解雇の種類と就業規則の確認】
懲戒解雇:重大な規律違反(横領・暴力など)がある場合。ただし就業規則に明記されていることが必須です。
普通解雇:勤務態度不良や能力不足など。ただし客観的にみて十分な指導や改善を行ったが改善が見られなかったという合理的理由が必要にはなります。
懲戒解雇にしろ、普通解雇にしろ、必ず就業規則に該当条文があるか確認しておくことが重要です。
【記録と証拠の整理】
裁判になった際に最も問われるのは「客観的証拠」です。
- ・注意・指導内容を記録した書面
- ・面談記録や議事録
- ・問題行動の頻度や程度を示す資料
これらをあらかじめ文書で整理しておくことで、企業側の正当性を主張できます。
【解雇通知書と守秘義務】
解雇を行う際には、解雇通知書を作成し、本人に交付する必要があります。
加えて、退職後も企業の情報を漏らさないことや誹謗中傷を行わないように守秘義務誓約書の取り交わしも忘れてはなりません。
4.まとめ
解雇は、企業にとって「最終手段」であり、できる限り避けるべき対応です。
解雇予告手当の支払い、訴訟リスク、助成金の喪失といった金銭的・時間的負担など、経営に多大な影響を及ぼすためです。
それでも解雇を選ばざるを得ない場合でも、本人が納得しやすいプロセスを経ることが不可欠です。
普段からの改善命令や記録の積み重ねが、解雇を円滑かつ適法に進める鍵となります。
また、言いづらいことを先送りせず、日々の指導・フィードバックを大切にすることで、解雇という極端な手段を避けられるケースも多いです。
管理職はこのことを念頭に入れておく普段の指導や教育を行う必要があります。
フィードバックの方法は、前回のコラム「評価面談でモチベーションを下げないためのフィードバック法」を参考にされてください。
今回のコラムは以上です。お読み頂き、ありがとうございました。
〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長
社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。
最近の講演内容
「社員の評価制度と賃金制度のあり方」 肥銀ビジネス教育株式会社主催
「欲しい人材を引き寄せる!求人募集と採用選考の見極め方セミナー」株式会社TKUヒューマン主催

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