最低賃金の正しい理解

毎年のように引き上げられる最低賃金。
熊本でも2026年1月1日から新たな最低銀金、時給1,034円が適用されます。
人件費への影響だけでなく、正しい計算方法を理解していないことで知らぬ間に“最賃割れ”を起こしてしまうケースも少なくありません。
今回は最低賃金の基礎から、計算方法、適用基準、給与設計の見直し、そして最賃を下回った場合の罰則までを整理して解説します。
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最低賃金とは?
最低賃金は、企業が労働者に支払わなければならない最低限の時給額を法律で定めたものです。
最低賃金は労働者全員に適用され、障害者雇用・パート・アルバイト・試用期間中の従業員も例外ではありません。
対象となる手当とは?
最低賃金に算入できるのは、労働の対価や業務遂行に対して支払われる手当です。
具体的には以下が含まれます。
- ● 基本給(固定給)
- ● 職務手当・役付手当など業務内容に応じて支払われる手当
- ● 生産手当・売上歩合など成果に応じて支払われる手当
対象とならない手当とは?
一方、以下のような手当は労働者の個人的事情や特定の労働対価ではないため、最賃の計算から除外されるものになります。
- ● 通勤手当(交通費)
- ● 賞与(ボーナス)
- ● 臨時的に支払われる一時金
- ● 時間外労働・休日労働・深夜労働の「割増賃金部分」
判断に迷う手当は?
- ● 家族手当
- ● 住宅手当
- ● 精皆勤手当
これらの手当は支給基準にもよりますが、一般的には最低賃金の計算から除外されるため、給与体系を見直す際は、これらの手当を基本給やその他の手当に組み込むことを検討する必要があります。
最低賃金の計算方法
1.時間給制の場合
そのまま地域の最低賃金時間額と比較します。
2.日給制の場合
日給を、その日の所定労働時間数で割って時間額を算出します。
3.月給制の場合
月給から除外される賃金を除いた額を、月平均所定労働時間で割って時間額を算出します。
- 【月平均所定労働時間の算出】
- 1.年間の所定労働日数を計算(例:365日 – 120日(休日) = 245日)
- 2.年間の所定労働時間数を計算(例:245日 × 8時間 = 1,960時間)
- 3.1ヶ月平均所定労働時間数を計算(例:1,960時間 ÷ 12ヶ月 ≒ 163.33時間)
特に月給者は時給換算を怠ると、気づかないうちに最賃割れしていることもあります。
自社の年間カレンダーに基づき、正確な月平均所定労働時間を算出しておきましょう。
事業所が他の県にもある場合は?
最低賃金は、労働者の「働いている事業場の所在地」の最低賃金が適用されます。
例)本社が東京、支店が熊本にあるにある場合
熊本の支店で働く労働者は熊本の最低賃金が適用されます。
- 【注意点】
- 派遣労働者
- 派遣元の所在地ではなく、派遣先の所在地の最低賃金が適用されます。
- 在宅勤務者
- 通常は所属する事業所の所在地の最低賃金が適用されます。
しかし、自宅での勤務場所が明確で、指揮命令系統が自宅にある場合は、居住地の最低賃金が適用される可能性もあります。
給与設計の見直し
前述の通り、最低賃金から除外される手当は多くあります。
- 【具体的な見直し策】
- 1.精皆勤手当の廃止または基本給への組み入れ: 皆勤を前提とせず、その分の原資を基本給に上乗せする
- 2.家族手当の職務手当化: 家族の有無によらず、職務や役割の難易度に応じて支給される手当として再定義し、基本給に近い性格を持たせる
- 3.通勤手当の実費精算化: 定額支給をやめ、完全に実費精算にする
※賃金体系の変更には、不利益変更とならないように細心の注意が必要です。
最賃を下回った場合の罰則
最低賃金は「強制法規」であり、違反すると厳しい対応が求められます。
1. 罰則
最低賃金法第40条:50万円以下の罰金
企業だけでなく、経営責任者や担当者が対象となる場合もあります。
2. 行政指導・是正
労働基準監督署からの是正勧告により、
過去に遡って不足分を支払う義務が発生します。
3. 付加金の可能性
悪質と判断されると、
未払い額と同額の「付加金」の支払いが命じられることもあります。
まとめ:毎年のチェックが企業を守る
最低賃金は毎年見直され、特に近年は大幅な上昇が続いています。
賃金体系が複雑な企業ほど、対象となる手当・対象外の手当の判断が難しく、意図せず法令違反になるリスクがあります。
2025年の最低賃金改正は、経営者にとって避けられないコスト増の波ですが、同時に、これまでの給与体系や雇用慣行を見直し、企業の付加価値を高める絶好のチャンスでもあります。
最低賃金の上昇を「単なるコスト」と捉えるのではなく、「優秀な人材を惹きつけ、定着させるための投資」と再定義し、同一労働同一賃金、職務給・役割給への移行、そしてパートタイマーのキャリアパス整備といった戦略的な人事施策を実行に移すことが、この新しい時代を勝ち抜く鍵となります。
人事労務担当者の方々は、最低賃金が適切に支払われるように対応すると同時に、未来志向の給与設計へと舵を切るきっかけにしていただけたらと思います。
〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長
社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。
最近の講演内容
「社員の評価制度と賃金制度のあり方」 肥銀ビジネス教育株式会社主催
「欲しい人材を引き寄せる!求人募集と採用選考の見極め方セミナー」株式会社TKUヒューマン主催

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