メンタルヘルスによる休職者対応のポイント:トラブル防止と規定整備と円満解決のための具体策
はじめに:メンタルヘルスと企業責任
昨今、メンタルヘルスの問題は企業にとって避けては通れない課題となっています。
従業員のメンタルヘルスが悪化することで、生産性の低下や労働力の喪失といった直接的な影響に加え、企業の内外の評価にも大きな打撃を与える可能性があります。
本コラムでは、メンタルヘルスを理由に休職する従業員への対応方法を、最新の法令に基づいて解説します。
目次
- 1.メンタルヘルス休職者に対する基本的な対応方
1.1 事前の規定整備の重要性
1.2 休職者への事前説明とそのポイント - 2.休職期間中の企業の対応
2.1 継続的なフォローアップの方法
2.2 復帰希望者へのサポート体制
2.3 退職希望者への対応と手続き - 3.休職者の復帰後の対応
3.1 復職時の就業環境調整
3.2 トラブル防止のための社内ルールと教育 - 4.トラブルを未然に防ぐための企業文化の形成
4.1 メンタルヘルスに関する社内啓発
4.2 人事担当者と上司の役割 - 5.まとめ:メンタルヘルス対応の適切な運用で企業価値を高める
1. メンタルヘルス休職者に対する基本的な対応方針
1.1 事前の規定整備の重要性
メンタルヘルス休職者への対応を適切に進めていくためには、企業の就業規則に前もって休職制度を整備しておくことが有効です。
労使間でトラブルにならないために、休職制度には主に以下の事項を整備すべきです。
自社の規定が問題ないか是非ご確認ください。
(休職期間)
- ● 休職制度の適用対象者の明記・・・勤続1年以上の者を対象にする等
- ● 勤続年数のカウント方法の明記・・・休職事由と同一事由である欠勤開始日を基準日とする等
- ● 休職要件の明記・・・欠勤が連続、断続を問わず1ヶ月(歴月)に10日以上続いた場合
- ● 復職の可能性が低い場合の休職の取扱いの明記・・・休職の否認、期間短縮となる場合がある等
- ● 休職の開始日・・・要件に該当したと会社が決定した日が開始日となり、本人への通知の有無を問わない等
- ● 休職期間の通算について明記・・・1年以内の同一事由の休職期間は通算する等
- ● 休職期間中の社会保険料や住民税の取扱いの明記・・・本人負担分は指定期日までに振り込むこと等
- ● 復職時の配置替えの明記・・・従前の業務に従事することが困難な場合は配置換えを行う等
- ● 復職希望時の取扱い手続きの明記・・・復職希望日を1週間前に通知する等
- ● 復職時の判断基準の明記・・・治癒(健康時の通常の業務を遂行できる程度に回復)したと会社が認めた場合等
- ● 復職判定の明記・・・復職希望時は会社指定医師の診断書を提出する必要がある等
1.2 休職者への事前説明とそのポイント
休職に関する説明は、トラブルを避けるための重要なステップです。
具体的には、休職の理由、休職期間中の処遇(給与を有給処理するか、欠勤控除するか)、健康保険制度や労災保険制度の休業中の給付内容や手続方法、復職の条件などを文書で明確に説明し、従業員から同意を得ることと、休職者が不安を感じることなく、適切な治療に専念できるよう、安心感を与えるコミュニケーションが求められます。
2. 休職期間中の企業の対応
2.1 継続的なフォローアップの方法
休職中の従業員に対しては、定期的なフォローアップが必要です。
メールや電話での連絡を通じて、状況確認や復職の意思を確認することが推奨されます。
ただし、過度な連絡は逆効果となるため、適切な頻度で行うことが求められます。
あらかじめ就業規則の休職規定にも、休職期間中は従業員側から1ヶ月に1回は会社に状況報告をする義務があるように規定に盛り込んでおくこともお勧めです。
2.2 復帰希望者へのサポート体制
休職中の従業員に対する継続的なフォローアップは、復職への意欲を高めるために欠かせません。
企業が従業員と適切な距離を保ちながら、心理的安全性を確保する方法を具体的に説明します。
また、心理的負担を軽減するための外部カウンセリングサービスの活用することもケースによっては有効です。
2.3 退職希望者への対応と手続き
退職を希望する従業員に対しては、適切な手続きを踏みつつ、円満退職を目指すことが重要です。
退職理由の確認、離職票の発行、退職後に受給できる健康保険制度や労災保険制度の給付金制度の有無、退職金の支払いの有無、退職後の支援策の提示などを行うことで、退職者との関係を良好に保つことができます。
3. 休職者の復帰後の対応
3.1 復職時の就業環境調整
復職後の従業員に対しては、元の業務にスムーズに戻れるよう、就業環境の調整を行うことが求められます。業務内容の再評価や、負荷の軽減、適切なサポート体制の確立がその一例です。
3.2 トラブル防止のための社内ルールと教育
復職後のトラブルを防ぐためには、従業員全体がメンタルヘルスに対する理解を深めることが重要です。
これには、社内での定期的な教育や研修が効果的です。
また、復職者に対する偏見や差別を防ぐためのルール作りも不可欠です。
4. トラブルを未然に防ぐための企業文化の形成
4.1 メンタルヘルスに関する社内啓発
企業として、メンタルヘルスに対する啓発活動を積極的に行うことで、従業員の理解を深め、トラブルの発生を未然に防ぐことができます。
具体的には、メンタルヘルスに関する情報提供や、相談窓口の設置が有効です。
4.2 人事担当者と上司の役割
人事担当者や上司は、従業員のメンタルヘルス状態に気を配り、問題が発生した際には早期に対応することが求められます。
また、従業員との信頼関係を築き、問題を抱えた際に気軽に相談できる環境を整えることが重要です。
5. まとめ:メンタルヘルス対応の適切な運用で企業価値を高める
メンタルヘルスに関する休職者対応は、企業にとって大きな課題である一方、適切に運用することで対象の従業員及びそれ以外の在籍従業員からの信頼度を高めるチャンスでもあるといえます。
規定の整備、適切な対応、そして企業文化の形成を通じて、従業員の健康を守り、安心して働ける職場環境の向上に繋がります。是非、この機会に自社の就業規則の内容をご確認ください。
もし、就業規則や社内規定の整備改定が必要な場合は、弊所で承っておりますのでお気軽にご相談ください。
〈この記事を書いた人〉
山下 謙治
Kenji Yamashita
社会保険労務士法人 プロセスコア 代表
日越協同組合 監事
社会保険労務士・行政書士・マイケルボルダック認定コーチ
日産鮎川義塾 師範代 九州本校 塾長
社会保険労務士として人事・労務の課題解決を通じて地元熊本を中心に中小企業の経営支援20年のキャリアを持つ。従来の社会保険労務士の業務だけでなく、管理職育成を中心とした教育研修事業や評価制度導入支援を行い、経営者が抱える、組織上の悩みや課題解決の支援を行っている。得意とする業務は、起業から5年目以降の発展期における組織強化・拡大期の採用・教育・評価・処遇といった人事制度づくりの支援。
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